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薬物乱用防止教室で講義をする際の注意点・留意点
(2007年1月)
長崎国際大学薬学部 山本経之

薬物乱用防止教室での講義に際しての注意点・留意点を挙げる。

)薬物乱用の真の恐ろしさを教えるには、別記した5項目を 念頭に置いてやることが重要である。

)聞き手はまず「聞きたくないのに集められている」−と認 識するのが、話す上での最初のポイントである。このことを 念頭に置き、話しの内容・展開を考えねばならない。従って 騒がしいのは前提であり、驚くべき事ではない。聞かせるの ではなく、聴いて頂く姿勢が肝要であり、話術でもって静寂 を保つのが王道である。声を張り上げ注意する行為は話し手 の実力不足を露呈した事になる。

)マニュアル化されたスライドの説明文を読む程度の知識 では、聞き手の理解は得られない。10教えようと思えば、20 の知識を習得していなければならない。 例えば、脳波のス ライドを使用するのであれば、喋らなくても脳波の成分(α 波・β波等)が何を意味するのか・覚醒波と睡眠波の特徴は・けいれんの際の脳波は− 等の勉強が、事前に必要である。

4)薬物乱用に関する知識が無いのは論外であるが、知識が充分あっても聞き手の理解が得られるわけではない。元来、講義とはそう言うものであり、若干の戦略が必要である。講義の導入は重要であり、如何にして聞き手の心を掴むかを考える。導入としての話題や用語の選択は、常に聞き手の立場に立って行う。

5)目線を常に聞き手 に置くことが、理解を得る第1歩である。また聞き手の状況を常に観察し、臨機応変に話の段取りや内容を変える工夫も必要である。

6)いかに立派な講義内容であったとしても、話し手の話術が講義の評価を左右する。言葉は はっきり喋るように心掛ける。特に語尾には注意し、言葉が不明瞭に流れないようにする。

良い声とは;・力のあるよく通る声、・穏やかな柔らかい声、・明るい声

悪い声とは;・声量がない声、・か細い声、・暗い声、堅い声、・鼻声、・ダミ声、・こもる声、・甲高い声、・老けた声、・うるさい声、・息苦しい声、・かすれ声

話し手としての“好感度”が得られなければ、話は聞き手になかなか伝わらない。 よい講義とは、突き詰めて考えると、話し手の人物像に委ねられている面が多い。

7)講義は、なるべく視覚で捉えられるよう工夫する。スライドの作成に際しては、多くの知識から選択し推敲を重ねる。つまり、1枚のスライドには目に見えない没にした資料の存在がある。このプロセスが大切である。

8)折角、勉強したので、まとめたものは喋りたい・教えたいものである。しかし、調べてきたことや知っていることを全て盛り込んで頑張っても、意外と効果があがらず、逆の場合さえある。ソプラノ歌手のこれ以上でないマックスの高い音階を聞くよりも、それより低い音階を聞く方が、聞き手にとって心地良いのと同じである。

9)与えられた時間を超えると、折角よい講義であっても、結果として効果が半減する事がある。“熱弁”とは、一般的には話し手の錯覚と心得るべきである。時間厳守はスピィーチのスピードで調節せず(早口で喋らない)、スライドの枚数を減らすか、話の内容を絞る事でコントロールする。

10)質問に答える場合は、堂々として答える。しかし、不明な点・解答できない事柄であれば、曖昧な答え方をせず、「解らない」とはっきり答える。後日調べた上「正しい答え」を提出する。答えられないのは話し手にとって恥ずかしいことではあるが、虚勢を張りいい加減な答えを教えられる事こそ、聞き手にとって最悪であり、迷惑である。

これまでの薬物乱用防止教育のお陰で、ある程度の知識の普及が達成された。しかし、最近の薬物乱用防止教育は、講演回数等を初めとする実施義務に重きが置かれ、上滑りの傾向にある。継続を必要とし、更なる的確な飛躍を望むなら、次のステップとして教える側の姿勢に踏み込まなくてはならない。
自分の生甲斐としての「薬物乱用防止教室の講師」も否定はしない。しかし、聞く側の生徒の満足・共感が得られなければ、話し手・開催者側の自己満足・達成感が得られたとしても、「薬物乱用防止教育」の成果が得られた事にならず、お互いの時間の無駄である。
その意味で、薬物乱用防止教育の実践に当たって問われているのは、聞いてくれない・理解してくれない生徒の方ではなく、講師を含めた教える側(先生・講師としての力量や信頼される人間性等)にこそ問題がある-と考えるべきである。
そこに焦点を当てれば、薬物乱用防止教育の更なる推進が期待できる。